場所は東南アジア、人身売買グループのアジトがある港に近い雑居ビル。
そこで、とある“掃討”が行われていた。

 そのビルは現在爆撃を受けているらしかった。らしい、というのは、“敵”の対
応に当たった人間が全員死亡し、後に残ったのは爆発の跡のみだったのでそう推測
される、ということである。
 そのアジトの責任者、即ちグループの首領が怒気を隠そうともせずに階段を上がる。

「それで!敵の得物の目星はついたのか!」
「はい、爆発の規模を考えるとグレネードランチャーの類かと思われます」
「そうか、敵の位置の特定はできたか?」
「いえ、単独だとは特定されてはいますが位置の特定はまだ」

 音を立てて扉を開き、首領が廊下に足を踏み入れる。

「三階と四階が一番やられているのだったな」
「はい」

 そう応えた部下は、首領の顔が見る見る渋くなっていくのに気づいた。

「どう、なされましたか?」
「馬鹿者…、気づかないのかこの異様さに!」

 そのフロアには色々なもの――人体も含む――が焼ける臭いがしている。さんなものがする時点で充分異様なのだか……。

「ここには火薬の臭いが一切無いではないか!敵が使っているのはグレネードランチャーなどではない!!」

 真っ赤になって叫ぶ首領。対して真っ青になっていく部下。この爆発が火薬によるものではない?

「では、薬品か何か…」
「そんなものが撃ち込まれるか!第一こんな爆発が起こせる、武器として使われる火薬以外の薬品がそうそうあるか!」
 首領は爪を噛んだ。一体敵は何を使って、どういう目的でこのようなことをしている?しかも単独でこれだけのことをしてくるだと?心当たりがいない。
 裏の世界にはできるだけ敵を作らないようにしている。何の前触れもなくこのような攻撃を受ける理由などない。
 殺した人間の遺族か?…まさか。一般人が得体の知れない武器で武装することなど不可能だ。可能な奴らの関係者には手を出していない。

「何なんだよ、一体」

 その頃、上の階では遠距離用の銃器を使う用意が進められていた。

「明かりを着けるんじゃねぇ!狙い撃ちにされるぞボケェ!」
「赤外線スコープは用意できたか!?」

 本来戦闘は専門外の組織にしては素晴らしく迅速な対応を見せる構成員ら。
 これも、グループをここまで大きくした首領の腕の成す技である。
 しかし、ここではその組織の能力は完全に封印されていた。
 見えない敵。乏しい情報。これでは戦えない。
 完全にしてやられた状況である。

「そら、スコープ付きの双眼鏡だ」

 構成員の手に双眼鏡が手渡される。
 数キロメートル先まで見える双眼鏡は、夜間でも問題ない視界を誇る。 索敵が始まって数分、とうとう目標を構成員の目が捕らえた。

「いたぞ!東北東、距離四百。男が一人居る!あのビルは……×××××だ!」

 その情報がトランシーバーを通じてすぐさま各構成員に伝えられる。 首領が指示を飛ばし、かけて動作を止める。

「距離四百、男が一人だと!?」

 あり得ない。と思った。その射程でこの破壊力を持つ兵器――武器というよりそれでは兵器だ――を持った男が、たったの一人だと!?
「なんだそれは。それじゃそいつは戦車か何かか畜生」

 それでも首領は構成員をいかせる。

「相手が一人とは思えない。偵察に行き、出来るだけ情報を集めろ。他の奴らは重要なものを持って離脱の用意だ!」

 分が悪すぎる。ここは逃げを打った方が得策だ。
 首領がそういったとき、トランシーバーから声がした。

「目標が動きました。あれは……弓?あれは弓です!敵は弓でぶそ……」

 通信が途絶える。その原因は狙撃手の死亡。
 構成員は、細身の剣で脳天を貫かれていた。傍らにいた仲間は見ていた。その剣が男の弓で放たれた物だということを。その剣を、男がどこからともな取り出したということを。

「ボス、あいつは剣を弓で飛ばしやがった。無茶苦茶ですぜ」
「馬鹿を言うな!剣を弓で!?四百メートル先から?仮にそれが可能だとしてそれが何故爆発する!?」
「でも本当ですっで…何だ?…ひ、ひぃぃぃ―――」

 ドン、と爆発音がして、ビル全体が揺れる。
 首領がいる階の天井がひび割れ、所々コンクリートの欠片が落ちてくる。

「くそ、剣?剣だと!?」

 さらに、追い討ちをかけるように音がする。ひゅるるるる、と。爆弾を投下する音と言えば的確だろうか。

「くるぞ、全員伏せろ!!」

 首領が言い終わるや否や、ビルの中央に“それ”が着弾した。
 “それ”は一振りの洋剣だった。装飾が施された、しかしどこかその装飾が省かれたような印象の洋剣。
 それがビルの中央を抉り飛ばし基礎部分に突き刺さる。
 そして、黄金の光を撒き散らしながら炸裂した。
 ビルが、人間ごと粉微塵に吹き飛んだ。


「やれやれ、終わったか」
 男が弓を下ろす。その長身の男は、赤い髪が特徴的な東洋の顔立ちをしている。
 着込んで居るのは赤い外套。かなり目立つものだが、男はそれを気に入っているのか大分使い込んでいる。
 男の名前は衛宮士郎。フリーランスの魔術使いで、掃除屋みたいなことをしている。
 士郎は荷物を纏めると、潜んでいたビルを後にしようとする。そのとき

「見つけたぞ!何だ、本当に一人だぞ」

 二人の男が、階段を上がってきて士郎を見つける。

「気をつけろ、本部がやられたんだ。何を持っているのか分からな……」

 男が言い終わる前に、士郎が二本の短剣、ダガーと呼ばれるものを投擲する。
 それらは狙い違わず男達の心臓に突き刺さり、生命活動を停止させる。

「やれやれ、毎度のこととは言え人殺しは気が重い……」

 眉間を押さえ、頭を振る士郎。

「一度、日本に帰るかな……」

 少し疲れたように呟くと、士郎はビルを後にした。

 それは六月の初め。日本では梅雨の季節のことだった。


日本、冬木市。

 その日イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、クラスメートと共に下校していた。当然のように寄り道し、あっちのアクセサリーショップを覘いたり、こっちの洋服屋を覘いたり。今はゲームセンターにいる。
 ちなみに校則違反だ。

「ちょっとー、ナナー。いい加減に諦めてよー」

 イリヤがクラスメートに声を掛ける。ナナ、と呼ばれたその少女はイリヤに背を向けたまま手を振る。

「はいはーい、努力しまーす」

 ナナがやっているのはクレーンゲーム。狙った景品が中々取れないのでもうかれこれ二千円使っている。
 イリヤはうんざりした表情を浮かべると、傍らのもぐら叩きにコインを入れる。

(まったく。ナナは根っこ生えてるし、タイガはわたしのお弁当持って行くし腹立つなーもう)

 バコバコ。藤村大河がイリヤのお弁当を藤村の家の厨房からかっさらっていくのは毎度のことである。既に一々腹を立てることではなくなっているのだが、梅雨のじめじめした天気とナナに待たされていることが合わさって、イリヤの機嫌をすこぶる悪くしていた。

(うりゃうりゃ!ああ、引っ込むなコラー!!)

 ストレス発散のつもりで始めたもぐら叩きも、不機嫌さに油を注ぐ効果しかなかった。

 それからさらに三十分後。持ち金を使い果たしたものの、狙いの景品を手に入れてホクホク顔のナナの隣には、カリカリしっ放しのイリヤの姿があった。

「悪かったよ〜イリちゃーん。ねね、パフェ奢るからさ、機嫌直して」

 ずんずんと早足で歩くイリヤに、ナナが追いすがる。

「別にいいわよ。わたしは怒ってなんかいないもの」

 そっぽを向くイリヤ。それを見たナナが突然、得心がいった顔をする。

「あ、もしかして例の彼氏絡み?仕事で海外に行ってばかりだという。ははーん、構ってもらえなくて拗ねてるな、オヌシ」

 イリヤの足が止まる。彼氏?何のことだ?大体わたしの機嫌が悪いのは主にお前のせいだろうに。

「誰のことよ、それ」
「隠すな隠すな。藤村先生がふれてまわっているよ。イリちゃんが小学生の頃から想いを寄せている……………笑み社さん?」

 誰だ、それ。

「もしかしてシロウのこと?エミヤシロウ。確かに仕事で海外に言ってばかりだけど、別に彼氏じゃないわよ」

 そうだ、別にわたしはシロウのことをどうこう想っているというわけではない。あれは手のかかる弟のようなもの。決して彼氏などという甘い関係ではない。……と思いたい。

(確かに最近のシロウは格好よくなってきてる。けど、だからといって、わたしとシロウが恋人だなんて)

「ほうほう。黙っちゃって。さては図星だね。ではではそのシロウさんについてじっくりと聞かせてもらえますかな?」
「ば…バカなこと言わないでよ!別にわたしはシロウのことなんてどうとも思っていないんだからねーーー!!」
「俺がどうしたっていうんだ、イリヤ?」

 イリヤが固まる。
 ぎこちない動作で振り向いた先には、時の人、衛宮士郎がいた。
「よ、久しぶり」





後書き
第一話です。
このSSのメインはイリヤと士郎のお話です。
決して士郎君最強ものではありません。

とでも言っていないと自分自身イリヤの出番を削って士郎にバトルさせそうな今日<この頃、いかがお過ごしでしょう。
まずは第一話。士郎がどんな状況にあるのかの説明となります。
プロットの段階では第二話もまとめて第一話にする予定でしたが、長くなってきたのでここで一区切りします。

それでは第二話でお会いしましょう。
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