未明、遠坂邸。


「じゃあ、何?街に死者がうろついていたって言うの?」
「ああ。目に付いた一体は倒しておいたが、親玉の死徒は見当たらなかった。それに手駒の死者が一体ということはないだろう。一体何体かは分からないが」
「でも先輩、姉さんは何も察知していませんよ?」
「工房に篭っていたとはいえ、自分の管理地を荒らされて気付かないほどボケちゃいないわ」
「霊脈には手を出していないから、気付かれなかったんじゃないか?」
「あのねえ、手駒を何体も持っていられるような死徒に入り込まれたら霊脈に手を出されていなくても気付くわよ普通」
「じゃ、その死徒が姉さんよりも数段強いってことでしょうか。だから姉さんに気付かれることもない、と。五大元素使いだなんだと言っても姉さんもまだまだですねえ」
「桜……あんた言うようになったわね」
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふ。いつまでも気弱な桜じゃありませんよ」

 視線で火花を散らす姉妹に構わず話を進める士郎。いや別に無視したわけではない。二人も随分仲良くなったなぁ、一緒に暮らし始めた頃はあんなにぎくしゃくしていたのに、とこの黒き火花の前でそんな感想持つあたりあんたも図太くなったよ、なことを考えていた。

「俺は裏の仕事をやっているから、死者みたいな異存在の気配にも慣れていてな。それで気付けたんだけど、篭りっきりで疲れている遠坂が気付かなくても無理はないくらい薄い気配だったぞ」

 そう言われても納得できるはずもなく、悔しげに爪を噛む凛。

「うう……。なんで士郎が気付けて私が……」
「つまらない意地張っている場合じゃないぞ遠坂。それより対策を考えないと」
「誰が意地張ってるっていうのよ!!」

 なんだか最近のこいつ見ているとある存在を思い出すんだけど……と口には出さずに思う凛。だが彼女もいつまでもぐちぐちするような性格ではないので、気を取り直して話し合いを再開する。

「で、対策なんだけど。教会に行って、念のため埋葬機関が動かないように要請しておくわ。多分神父さんは死徒に気付いているだろうから」
「ああ、埋葬機関なんかに動かれた日にはどんなことになるか分かったもんじゃない」
「じゃあ、私は蟲を使って偵察しておきますね」
「俺は見回りをしていよう」
「ええ、お願いするわ」

 さらに凛は「イリヤに気付かれないようにしてね」と付け加えた。

「戦闘能力がない人を巻き込みたくないからね」
「む……」

 その夜の協議はそれでお開きとなった。



その日の朝、衛宮邸。

「え?当分夕飯作れない?」

 朝食の場で、士郎はイリヤと大河にそう告げていた。
 吸血鬼がうつろいているから夜は出歩かない方がいい、と言うわけにはいかないので、次の仕事の打ち合わせの予定がしばらく入っており、おそらく夜に食い込むから、と理由をでっち上げた。

「むー、それじゃ紫陽花見に連れて行ってくれる話はどうなるのよ」
「悪いな、打ち合わせが終わったら必ず連れて行くから」
「打ち合わせが終わったらすぐ仕事でしょー!」

 わー、と叫ぶイリヤ。それを見て大河も

「NGO職員ってのも忙しいみたいだけど、イリヤちゃんを放って置くのはお姉ちゃん感心しないなぁ」

 腰に手をあて唸る大河。

「よし、士郎は今度の日曜は何がなんでも休暇を取ること!そしてイリヤちゃんとデートしてきなさい」

 保護者命令だぞ、と大河。
 マテ、誰が保護者だ。そもそも今度の日曜って随分急だぞ、と士郎は思う。今日は水曜だから後三日しかない。三日で死徒を見つけて倒せというのかこの虎は。いや、虎は死徒のこと知らないけど。

「いやでも俺は仕事が………」
「士郎!仕事とイリヤちゃんとどっちが大切なの!」

 そういうことを言うか。
 士郎は混乱し出す。正義の味方を貫くことは切嗣との約束だし、イリヤのことは守るってあの日誓ったし、いやそもそもデートに連れて行くことと守ることは関係ないと思うがデートってなんですかデートって。

「シロウは、わたしとデートしたくないの?」

 潤んだ瞳&上目遣いでお願いモードのイリヤ。そんなものどこで覚えた。

「あーうー?」

 思考回路停止。凍結。全ての兵は撤退せよ。エマージェンシー、
エマージェンシー。敵は自宅にあり。至急増援を求む。

「ささ、士郎、イェスorノー?」

 二人に詰め寄られる士郎。ゴッド、俺は何か悪いことをしましたか?

「分かった…。仕事が片付いたらな」

 押しに弱いのは相変わらずの士郎。譲歩した提案は一蹴され、渋々ながら打ち合わせの進み具合の如何に関わらず日曜にイリヤをデートに連れて行くことを承諾させられた。
 このとき士郎はこう思っていた。死徒が動くのは夜。昼間なら危険はないだろうと。だが世の中意外とうまく回らないように出来ている。

「じゃ、今日部活の帰りに新都によって服買って来るね」
「分かったー。遅くならないようにね」

 は?イリヤ、今何て言った?
 今日新都に寄ってくる?部活の後に?それって日が暮れていませんか?

「いけません!お兄ちゃんはそんなこと許しません!!」

 危うくそう言い掛ける士郎。だが、そんなことをしたらイリヤに問い詰められるのは明白だ。なんでそんなこと言うの、と。
 ではどうするべきか。士郎は今までの経験を総動員し、心眼になりかけているほどの未来予想をする。策略だって張ったことあるんだぞ。冷静な状況判断を、冷静冷静。
 衛宮士郎は例え一%の確率であろうと見逃すことはない!
 そしてやや考えすぎな所がある兄は、最速で己の中に潜る。

【死徒がいるから危ないと正直に話した場合】

「じゃ、わたしもシロウを手伝うね。探索だったらわたしのほうが得意だよ」

 少女はそう言って力こぶを作って見せた。えへんと息巻くその姿は意外にも頼もしかった。だから、士郎は油断した。イリヤもマスターだったんだし自分がついていれば大丈夫だろうと。



 数日後、イリヤは見事死徒を見つけた。だが、その代償はあまりにも大きすぎた。

「嘘、だろ……」

 割れた大地。血のように真っ赤に燃える空。生けるものは尽く死に絶えた丘で最後の二体が対峙していた。
 片や、冬木の街に巣食う異存在、死徒。
 もう片方は呆然と剣を手にぶら下げる士郎。その剣は激戦の末ひび割れ、刃はこぼれ放題だった。そして、それは血と脂で染まっていた。
 士郎の視線の先は、死徒の足元。そこには白い少女が横たわっていた。

「あいあい。女の子の血、美味しい」

 人形のような表情で発音する死徒。既にその言葉は士郎に理解されてはいない。

 ウルサイダマレ。

「あいあい。お前、邪魔した」

 ソノザツオンヲトメロトイッテイル。

「あいあい。わたし、力すごい使った。疲れた。怒っている」

 キーキーウルサイ。

「お前、栄養になれ」

 ダカラサッキカラナニワケノワカラナイコトイッテンダ。

 ぶちぶちと何か大切なものが切れる音がする。
 獣のような爪を振りかざし、死徒が跳躍する。

「■お■うあああぁあ嗚呼■嗚呼あああああぁぁ■ぁぁぁ■ぁぁぁあああ■■■■■―――――――――――――!!!!!!」

 その落下点に向かい士郎が駆ける。死徒の着地と士郎の到達は同時。
 銀の火花が散り、剣と爪がぶつかり合う。僅か一合で限界寸前だった剣は砕け散った。
 得物を失った士郎に、死徒の爪が容赦なく襲い掛かる。
 瞬く間に数々の致命傷を負う士郎。だが、魔力で強化した身体はたかが致命傷程度では動きを止めない。
 死徒の過ちは、一撃で士郎の命を消し去らなかったことにある。

「とぉぉぉぉぉぉれえぇすぅっ、おおぉぉぉぉぉぉんんんんんんんんんんっっっっ!!!」

 歪み切った撃鉄が跳ね上がり、曲がりくねった回路が燻ぶる。
 荒ぶる魔力が出口を求めて暴れ回り捻れ狂った幻想が形作られる。
 それまでの澄んだ音ではなく、耳障りな怪音を立てて幻想が結ばれる。
 赤く脈打つ魔力は主の求めに応じて剣と成る。
 そこには一振りの妖剣。かつてかの騎士王が湖の妖精から授かったという星が鍛えた神造兵装、“最強の幻想”『約束された勝利の剣』。
 だがその聖剣もいまや無残に姿を変えていた。
 臓腑の寄せ集めのようなそれは刻一刻と担い手の身体を飲み込み、寄生された担い手の瞳はありえないことに金色となっていた。黒き白目に、金色の瞳。それ、“魔眼”の放つ瘴気は最早人間ではなく、ただただ異形であった。

「おまえは、いりやをころしたのか?」

 衛宮士郎は死徒に回答を命じる。

「殺した。殺すまで吸った」

 反射的に答えてしまったことに、死徒は何の疑問も持てなかった。

「じゃあ、しねよ」

 妖剣の一撃で、死徒は抹消された。



 衛宮士郎は荒野に一人立つ。妖剣は既に身体の大部分を貪り、脳に侵食しかけている。しかも、それより先に生命活動が止まるのが目に見えていた。
 彼は少女を見下ろす。
 命懸けで救った少女。守ると誓った少女。守れなかった少女。
 急速に磨耗しつつある記憶の中で、少女の記憶が走馬灯のように甦る。

「シロー!」

怒った表情。


「シロウ…!」

驚いた表情。


「シロウ〜」

泣いた表情。


「シ・ロ・ウ♪」

小悪魔な表情。


「シロウ♡」

笑った表情。



 その全てを守りたくて、何もかも守れなかった。
 この身は正義の味方を誓った身。それのみを目指して今まで生きてきた。死を覚悟したときもあった。自分の理想が歪だと感じたこともあった。
 それでも今まで走ってきた。なのに――――

「その報いが、これかよ…」

 納得いかない。こんなの受け入れない。これが正しいのなら、世
界は全部誤りだ。
 ―――故に正義の味方は、自分を売り飛ばす。

「世界よ、俺の死後を預ける。その報酬が今欲しい」

 その言葉と共に世界は書き換えられ、少女の死は消去され、青年は直後に息絶えて永遠の呪縛に堕ちた。






(待て待て待てー!これじゃ予想じゃなくて妄想だー!!)
 カット、カットカットカット。

(だったら、俺が影からイリヤを守ればいいじゃないか)

【テキトーに誤魔化しておいて、どうにかフォローした場合】

 既に日は暮れ、夜の闇があたりを覆う。
 それでここ、新都には人が溢れていた。その人ごみの中に洋服が入った紙袋を持った少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが居た。

(〜〜〜、早く帰れ〜〜)

 その少女をストーカーもかくやという視線で見つめる不審者、もとい青年の名前は衛宮士郎。
 彼は街に巣食う吸血鬼とイリヤが出くわさないように見張っていた。
 だが士郎の願いも空しく、死者の一体とイリヤの距離は現在十メートル程。

(気付くなよ、気付くなよ、どっちもおとなしく離れろよ)

 はらはらしながら見守る士郎。だが、イリヤはその視界にばっちり死者を納めてしまった。見る者が見ればあきらかに異常な死者。その死者を優れた魔術師であるイリヤが見落とすはずがなかった。
 訝しげな面持ちで死者の後をつけるイリヤ。

(わー、大変だ大変だー!)

 焦る士郎。近づく両者。路地裏に入っていく死者。事態は一刻の猶予もない。

(ええい、止むを得ん!)

 士郎はナイフを投影、死者に投げつける。
 それで死者は倒されたが、いささか人通りが多すぎた。
 彼が死者を倒す一部始終は何十人もの人に目撃され、そのほぼ全員が、士郎がいきなり人を殺したと思った。

 殺人の容疑で警察に追われる士郎。それでも彼は冬木に潜む死徒を見つけ出し、見事滅ぼした。
 だがその頃には協会からも士郎を始末する魔術師が送りこまれていた。士郎が警察に捕まれば殺した手段を調べられる。その過程で神秘が露見する可能性がある。例えわずかな可能性でも見過ごすことはできない。漏洩を防ぐために、衛宮士郎を始末しろ。

 国外に逃亡する士郎。それを追う警察掃除屋魔術師etc……。
 士郎は逃げた。守るべき人を助けられた充足感を胸に抱き、それをただ一つの支えとしながら。

 逃亡の過程で追っ手との戦闘があった。士郎に殺すつもりなど微塵もなく、適当に無力化しただけで済ましていた。
 しかし、そのときの傷が化膿して命を落とした間抜けがいた。しかも魔術師。刻印を持っている魔術師のくせにその程度に死んでどうすると思うかもしれないがとにかく死んでしまった。

 士郎に新たな罪状が付け加えられた。“魔術師殺し”。町から町へと渡り歩く士郎。蓄積する疲労、癒えない傷。雨が降りしきる日、彼は限界を迎えていた。ボロキレを纏い座り込む士郎。そこに一人の少女が舞い降りた。
 彼女は傷ついた士郎を介抱してくれた。その甲斐もあって序々に元気を取り戻す士郎。だが、その少女すら追っ手だった。

「なんで、君がこんなことを………」

 二人が出会った日のように冷たい雨が降る日、士郎と少女は決別の時を迎えた。
 一人の掃除屋の顔で士郎を見つめる少女。銀色のナイフを腹に突き立てたまま立ち尽くす士郎。

「シロウ・エミヤ。貴方は自分の立場を理解していない」

 少女はそう言い放った。貴方を助けたのは油断させるため。この日まで殺さないでいたのは、貴方が中々隙を見せなかったから。

 少女が銃を構える。銃口の先には士郎の心臓。

「脳は残せと言われているの」

 乾いた音が響いた。






(なんだそれー!違う違う、話違う!)
 カット、カットカットカット。

 悶える士郎と、それを気味悪そうに眺めるイリヤと大河。

「シロウ、変」
「お腹でも痛いのかなぁ、心配だよう」

 のたうち回る士郎をしばらく見物していた二人だが、数分もすると士郎は突如復帰した。がば、と起き上がる士郎に引きながらも二人は彼に声をかける。

「士郎、だいじょ………」
「どうしたのよ、いった………」

 絶句。士郎は壮絶な顔をしていた。イリヤも大河もその表情には心当たりがあった。そう、それは“覚悟を決めた”表情。

(何々、今度の仕事、シロウにそんな顔させるようなものなの?)
(ちょっと〜、どこかに討ち入りに行くの、この子はぁ〜)

 というよりもむしろ

((なんなのこのイっちゃった表情は))

 イリヤが士郎の目を覗き込み尋ねる。

「ねえ、何か隠しているでしょ」
「いいや、何も隠してなんかいないぞ」

 意地でもとぼけようとする士郎と、全然信用していないイリヤ。
 イリヤは魔眼を使おうかとも思ったが、士郎の意思に反したことはしたくなかった。彼女は死徒の来訪に気付いておらず、士郎が、冬木に帰ってきている時にまで厄介事を抱え込んでいるとは思っていなかった。多分、今度の仕事は危険なのだろう、しばらく休めばいいのに、と彼を気遣うのにとどめていた。
 だが、士郎が隠し事をしているということは確信していた。そのことは間違いなく心に留めておいた。
 自分にくらい全部打ち明けてくれてもいいのに、昨夜のことはどう思っているのだろう、とやや失望しながらイリヤは引き下がる。

「じゃあ……、日曜、忘れないでよ」
「うん、イリヤ。日曜楽しみにしているよ」

 士郎はこのとき、ある一つの打開策を考えていた。これは正義の味方たる自分にはふさわしくない方法かもしれない。
 だが、守るべきもののためなら、手を汚すことも辞さない。そのことにためらいはない。自分の罪など自分が背負えばそれで済むのだからなんと楽なのだろう、と。



†        †        †




 その日の昼、冬木中央公園。

 昼間でもここには人はほとんどいない。十五年前の大火災の怨念が溜まったこの場所は一種の固有結界じみた所になっている。
 ましてや平日である。人っ子一人いない。

 士郎はここで投影を繰り返していた。投影するのは数多の剣。宝具ではないそれらは士郎の負担も少なく、数多く投影するのにうってつけと言えた。

「よし、こんなものかな」

 辺りにばら撒いた剣を眺めてなにやら納得する士郎。踵を返そうとして、彼はあるものに目を止める。
 そこにはベンチがあった。五年前の聖杯戦争の折、セイバーに膝枕されて寝たベンチだった。
 あの時士郎はみっともなく焦り、それをセイバーは呆れた顔でたしなめていた。
 最愛の人の思い出が宿るそれを士郎は黙って見る。思い返すのは彼女の残滓たる日々の記憶か。

「仕方ないよな、イリヤを守るためだ」

 許してくれ、セイバー。と、士郎は呟くと公園を出る。
 士郎はこの瞬間、恋人との想い出すら捨てる決意をした。



†        †        †




「………………ルン」

 この季節は嫌いだ。雨が続いて頭が痛くなる。

「…ろ、…………ベルン」

 頭が痛いから眠くなる。

「起きろ、アインツベルン」

 だから授業中に寝てしまい、先生に叱られる。

「……寝てませーん」

 寝ていた人間特有のセリフを吐き、顔を起こすイリヤ。
 それを聞いて、その古典教師は

「そうか、ではこの文を現代語訳してみてくれるか?」

 んー、とまだ半分閉じている目を黒板に向けるイリヤ。

『やはら掻きつき登りたりけるに』

 ……。どの場面だ一体。
 黒板の前でチョークを持ったまま硬直するイリヤ。
 さっき京に来たとかどうとか言っていたのに……。
 “やはら”って何だろう。

 そろそろ嫌な汗が流れ始める頃になったとき、イリヤは大量の魔力を感じた。編み上げられた魔力が一気に開放され炸裂する感触。この波動は遠坂の宝石魔術を用いた魔力弾などに近い。
 案の定、学校が地震のように揺れる。
 続いて爆音。
 なんだなんだと生徒が窓に駆け寄る。

「おい、あれ新都のほうじゃないか」
「うわスゲェ。煙上がっているよ」
「何?テロ?」

 窓から頭を出して口々に喚く生徒達。イリヤもその中に交ざって黒煙が上るのを見物していた。
 彼女は今の魔力の気配に覚えがあった。彼女に一番近い人の魔力である。分からないはずがない。
 その人は今朝、挙動不審だった。
 そのことと今の爆発。関係を疑うのは当然であろう。
 学友がイリヤを見たら吃驚したことだろう。いつもの、感情に裏表がなく可愛らしい彼女とは違い、狩人のような鋭い目つきと、死刑執行人のような冷たい目をしたイリヤなど彼らは見たことが無かった。
 イリヤは、魔術師の目をしていた。



「何かねー、新都の公園で爆発があったみたいなの。テロなんかの可能性はないみたいなんだけど、当分新都の方はごたごたするかもね。もしかしたら危ないかもしれないからしばらく部活も禁止。放課後は真っ直ぐ帰宅すること」

 昼のHRの時間に大河、藤村教諭が生徒達にそう告げる。
 ブーイングが起こる教室の中でイリヤは険しい顔をしていた。



†        †        †




「あんたねぇ、余計な仕事増やすんじゃないわよ」

 その頃士郎は、凛に説教を喰らっていた。
 爆発そのものは単なるガス爆発で誤魔化せそうだが(公園での爆
発なのに、である。裏工作の成果なのでツッコミ厳禁)、そのため
の裏工作は冬木の管理人たる凛の仕事である。

「いや、ああしないとイリヤが聖杯で俺が血塗れで……」
「イリヤが聖杯なのは昔の話であんたが血塗れなのはいつものことでしょ!」

 本気で叱る凛。このへっぽこが何を考えていたのかは知らないが、万一死人がでていたら士郎は殺人犯である。

「どうせ夜に人が出歩かないように、とか余計な気を回したんでしょうけど、こんなことしたら死徒の方も警戒して動かなくなるわよ!」

 頭を抱える凛。その横で桜が言う。

「でも先輩も良かれと思ってしたことですから、あまり責めないで下さい」

 そう言う桜は苦い顔をしているあたり、士郎のやったことはあまり巧い方法とは思っていないのだろう。

「済まない、桜」
「いえ、いいんですよ先輩。でももう無茶は止してくださいね」
「分かっている」
「あら、桜には素直なのね」

 にっこりと素敵に微笑みなさる凛嬢、もとい赤いあくま。

「桜にイリヤに……。やっぱり年下趣味なのかしら衛宮君は。ああ嫌だ、不潔」

 腹立ち紛れに士郎をからかう凛。

「な、年下って……遠坂、そりゃイリヤも桜も年下だけど別に俺はロリコンってわけじゃ……」
「あら、誰がロリコン、なんて言ったかしら。私はただ年下趣味って言っただけよ。桜もイリヤもロリって歳じゃないし。それともなに?衛宮君はそういう自覚があるのかな?」

 自爆。真っ赤になったり真っ青になったりする士郎。それを見て気が済んだのだろう、凛が話を再開する。

「まあいいわ。そうそう、神父さんの所にいってきたわ。教会は動かないと言ってくれたわ」

 そう報告する凛。一方、真面目モードに復帰し何やら考え込む士郎。

「どうしたんですか、先輩。何か気になることでも?」
「ああ、いや別のこと考えていた。昼間の爆発、もしかしたらイリヤに勘付かれたかな、て」
「多分気付いていますよ。どう誤魔化すつもりですか?」
「うーん、家に戻らないようにする。そうすれば顔を合わすこともないから大丈夫だろう」
「そもそも、どうしてあんなことしたの?その答えをまだ聞いていないけど。」
「いや、イリヤを巻き込まないようにするためにはどうしたらいいかって考えていたらなんか暴走した」
「はあ………、先輩ってすごい心配性ですね。兄バカってやつですか」
「「「はあ…………(ため息)」」」



†        †        †




 夜、遠坂邸。

「じゃ、行って来る」
「ええ、無理するんじゃないわよ。もし死徒を見つけたらすぐに連絡を入れること。こっちは対死徒戦の用意しておくから」
「連絡用の蟲は持ちましたか?」
「ああ、持った」

 遠坂邸の門を出る士郎。
 出て歩き出そうとしたとき、ぴたりと動きを止める。
 あちゃー、と額を叩く士郎。

「いるんだろ、イリヤ」

 士郎がそういうと、暗がりの中から腕を組んだイリヤが進み出てくる。

「さてシロウ?洗いざらい喋ってちょうだい」

 表面上は微笑んでいるイリヤだが……。
 彼女は間違いなく怒っていた。




後書き
というわけで第三話でした。副題は「士郎、無駄な抵抗をするの巻」
繋ぎもいいところな話でしたが。

まず補足から。
桜は凛の弟子やっています。知識はからっきしの桜ですので誰かに師事しなくてはならず、適任が凛だった、と。二人で倫敦にもいきましたがその辺のエピソードは話に全然関係ないので書きません。
……とまあ、あの姉妹が同居している理由を書いておこうと思いましたとさ。

では反省などを。
全体的に妙なテンションになったなー、と後悔。かといってどう書き直したらいいのか分からずまた後悔。
変なところでコメディチックになってしまいました。シリアスを続けるのは難しいです。

第四話は書くこと決まっているので今週末には公開できると思います。

それでは第四話でお会いしましょう。

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