男は思った。
 いつか、イリヤのことを安心して任せられる奴が現れるまで、兄である自分が守り抜こうと――――。
















 無限とも思える時を経た。
 科学の発展も、終焉も、人間の絶滅も。
 とうとう太陽が老いて膨らみ、地球を飲み込んだ。
 それっきり何もわからなくなった。

 とっくに肉体は風化していた。
 残っているのは意識だけで、記憶も瞬く間に磨り減っていった。
 記憶が泡のように湧き上がっては消えていく。
 その泡の中に、黒い泥が混じっていた。
 あれは“この世全ての悪”の記憶か……。
 泥が意識に触れた。

 気付いたら炎の中だった。
 零れ落ちた記憶の欠片が、走馬灯のように甦っては消えていく。
 剣の如き記憶が次々に斬りつけてくる。

 炭化した死体を踏み越えた。
 助けを求める声に気付かなかった。
 この子を連れて行って、という懇願を無視した。
 炎の中をただふらふらと歩く。
 とっくに慣れたはずの光景なのに、とても熱かった。
 怖かった。

 地上を見下ろしていた。
 地べたには男が一人這い蹲っていた。
 焼けていく。
 指先に火がついて皮膚が炙られていく。
 鼻孔を肉が焼ける匂いがした。脂肪が焼ける臭いがした。……カリカリに焼けた皮膚が見えた。
 全身がウェルダンに焼けて褐色に変化した皮膚が裂けて焼失する。
 ピンク色の肉はジリジリと焦げていく。
 髪は白く灰燃え尽き灰になった。
 酸素が足りないのか、体はぴくりと動かない。
 そんな男を鮮明に意識しながら見下ろす。
 近い空に流れ星が見えた。地面から空に向かって上っていったその奇妙な流れ星は黒煙が詰まった空を切り裂いて天へと上っていった。
 流れ星は地を揺らし、男の体が撥ねた。うつ伏せだった体が仰向けになり男の顔が目に飛び込んでくる。
 生気の無い眼球。
 自分だった。自分の顔など忘れたのに自分だと思った。
 過去の炎の中で自分が焼けていた。
 服が焼けていく。炭化を免れていた腹部がむき出しになり、紅斑と水泡が見えた。水泡がプチプチと音を立てて破裂し、液が噴き出す。テラテラとした肉が燻製になっていく。
 骨格筋が熱凝固を起こして筋肉が収縮して骨が折れた。太い骨がボキボキと折れ砕け、自分は悲鳴を上げることすら出来ずに激痛を感じる。その激痛ですら今は自分が生きている証拠になるのを悟った。
 折れた骨が肉を破って露出し自分はますます生ごみじみた外見に変貌する。
 熱で膨張した舌が破裂する。口から血があふれ出して窒息する。生きているはずがない死体がもう一度死ぬ。


 腸壁が破裂し腹筋が吹き飛び腸管が露出する。
 蟲のように臓物が踊り、身体は腸を産み落とした。
 汚いナニカが自分から零れ落ちる。



 そのナニカも生きるためには大切なものだと理解して悲しくなる。自分はまた死んだ。
 一酸化炭素を吸収した血液が鮮やかに変わり、不気味なオブジェと化した死体に彩りを添える。
 沸騰した血液が蒸発して黒い焦げだけが残り死体も端から炭化していく。
 まだもっていたのか、と思いたくなるタイミングで眼球が破裂する。
 顔の皮膚がずるずると剥けて頭蓋骨が、やあ、と手を振る。白い灰になった髪が風に飛ばされた。
 四肢が千切れ飛ぶ。分離されたロケットは地上に激突して燃え盛る。




 火炎旋風によりばらばらになった身体が巻き上げられた。錐揉みに四肢が散り散りで





 原子レベルで燃え尽きた体が消える。同時に意識が暗転する。



「なんで殺した!!」

 怒号が耳を打つ。頭部に石が当たる。
 顔を血が伝うが男は構わない。

「まだ若かったのに」

 断罪する声。ナニを言っているか判らない怒声。
 ぐらりと世界が揺れる。

「殺してよ!」

 助けた少女に殺せと言われる。

「生きていてもどうしようもないのよ! あんたが父さんも母さんも弟も皆殺したのよ! 皆殺すのならいっそ全て灰にしていいのに!!」

 背を向けて立ち去ると背後から切りつけられる。反射的にそいつを切り伏せた。
 五分前まで背中を預けていた仲間だった。

「人殺し!」
「死神!」
「悪魔!」

 男はどこに行っても決して報われはしない。
 殺すしかできない男には裁きが下る。

 判決。終身刑。毎日毎日死体を始末する刑。
 それで自分の罪を自覚しろ。
 死ぬことは許さない。
 永遠に苦しめ懺悔しろ悔やめ償え贖え。

                         焼けろ
                                                                   溺れろ       
                            凍れ刺されろ
                                              潰されろ
                                殴られろ      
                          撃たれろ   
      犯されろ

蹴られろ

 締められろ  

                                                                                               感電しろ
 落          ちろ
                            砕かれろ
                   喰われろ
                                            飲まれろ         
           剥がされろ         千切られろ

 溶かされろ 融かされろ 熔かされろ 鎔かされろ


        晒されろ            曝されろ

貫かれろ            

                              破滅しろ   
    埋められろ
                          引きずられろ
                                     磔にされろ
咀嚼されろ

 抜かれろ   

                        
                                    斬られろ
                                                     切断されろ
        解体されろ   
                  毒を盛られろ

醜く膨らみ腐り堕ちろ

                                  圧壊しろ
                        乾燥しろ
                       沸騰しろ
      墜落しろ
                                           串刺しにされろ
                                     病に冒されろ 
 蒸発しろ

 背徳しろ

 地獄に堕ちて苦しめ卑猥なニンゲンよ。



 袋小路に陥った者は彷徨い落とし穴に嵌った一月。
 産声を穴倉で上げて凍死した二月に時計が逆周り。
 すなわち第二法則を証明するための三月。
 煉獄で楽園から響く不気味な鳥の鳴き声を聞く四月。
 脚が腐り始めた流転の五月が幕を開き。
 要するに系譜に連なる六月がようやく五月で終わり。
 七月だとあっという間に野菜が売れる。
 意味不明だと平泳ぎをしながら気付く八月。
 それがお前の刑だとステレオで告げられる九月。
 脱獄など思い浮かべずバナナの皮で床を拭く十月。
 金銀ギラギラの四肢が腐り堕ちた十一月。
 もう一度始めからの十二月。
 終わらない。
 人殺しに科せられた罰は果てしない。
 永劫の罪を背負う。



 気付いたらまた炎の中だった。
 黒い太陽を見上げて悟った。
 自分は贄だと。

「その闇は、振り払ったはずです」

 微かに声がしたけど、意識することができない。
 又視界が変わる。
 今度はなんの声もなかった。
 自分が横たわるのは荒野だった。
 赤い、何もない広すぎる荒野だった。
 そのまま、又時間が経過する。
 風も吹かない大地に横たわり、時間の経過だけを認識して、自我が少しずつ磨耗するのを傍観して、ヒトガタの物体は―――
 ぱさぱさの白髪が垂れて視界を塞ぐ。
 この地に伏して姿勢が全然変わらない。
 目に映るのは髪と褐色にひび割れた指のみで代償として得たものはなにもない。
 かくして無限の牢獄に閉じ込められた男は――――







 何万年経ったのか、眼前に一本の鋼が降り立つ。

――抜け。

 鋼が語りかける。

――抜け。私を抜け。戦え。

 何年か経ち、その語りかけの対象が自分だと気付く。
 何ヶ月か経って、鋼に目を向けようと思い立ち、身体を動かし始める。
 何週間か経って、指が動き始めて、自分は本当は五体満足だったと思い至り何日か掛けて立ち上がる。
 膝に手をつこうにもどうついたらいいのかが判らない。
 赤子が始めて立つときのように、ゆっくりと、覚束ない動きで、記憶にない動きをする。
 なんで動くか理由が動機が無いまま動く。何故か動かなくてはいけないから動く。
 何日か経って眼が視力を取り戻す。焦点が合った先には一本の鋼。それが剣と呼ばれるのを思い出す。

――抜け。

 握ろうと手を伸ばす。みしりみしりと節が鳴る。
 柄に手が届く。

――抜け。抜き放て。

 指一本を曲げるのに一日掛かる。
 五日掛けで剣を握る

――戦え。

 ゆっくりと、ゆっくりと剣を握り締め、一気に抜き放つ。
 髪を垂らし、幽鬼のように立つ男が剣を携える。
 眼は虚ろなまま。

――戦え。

 朽ちた装飾から錆が少しずつ剥げていく。
 簡略化された装飾の剣の銘は『偽・黄金剣(カリバーン)』。
 男の記憶が剣から流れ込んでいく。
 パズルのピースを補うように。あるいは割れた硝子を張り替えるように。
 男が思い出す。

 誓いを。
 守ると決めたその誓いを。
 誓いを貫くと決めたその記憶を。

 人形のように男が歩き出す。
 一歩に一日かけて、立ち止まることはなく、目的地も決めずに歩き続ける。

 男は取り戻した。
 約束があった。
 歩くのには理由がある。大きな理由が。
 何か大切な約束をした。守ると決めた約束ではなく、すぐに果たさなくてはいけない約束が。
 花。―――紫陽花だったか。花を見に行こうと約束した。
 厄介事を片付けたら紫陽花を見に行こう決めた。
 果たさないと。
 脚が痛い。腕が痛い。頭が痛い。痛い所がないくらい痛い。
 歩き続ける。辿りつくべく歩き続ける。
 どこに?
 愚問。辿りつくべきところへ。

 いつしか荒野の地面は赤茶けた砂ではなく、白い雪に変わっていた。
 きゅっきゅっと小さい音を立てて歩く。
 空は晴れ渡った朝焼けの空。
 空からは冷たくない、温かい雪が降る。
 男は少しずつ取り戻しながら歩き続ける。
 同時に責苦も甦る。
 一人だけ生き残った。
 皆殺した。
 自分の理想のためにたくさん殺した。
 鉄のムシロを纏いながら男は歩き続ける。

 いつしか男の周囲には無数の剣が起っていた。
 名剣、魔剣……そして聖剣。
 どれ一つとして血を浴びたことのないものはない。
 呪いの剣すらある。
 だかしかし、全ての剣が男に語りかける。
 曰く、抜け、と。戦え、と。
 血を求めるだけの剣も抜けと語りかける。
 雪の平原に無音の合唱が響く。
 男はひたすらに歩を進める。
 何十年歩き続けたのか、男の目が一振りの黄金を見つけた。

 駆け寄り、黄金に手を伸ばす。

――いいのか?

 また、声がした。

――抜けば戻れない。再び修羅に身を置くことになる。それでいいのか?

 また、愚問だ。
 男は一気に黄金を抜き取った。
 瞬間 ―――――――笑顔が見えた。

「仇を取ってくれてありがとう」
「助けてくれてありがとう」
「人間として殺してくれてありがとう」
「楽になったよ」
「貴方に救われた」

 罵声を浴びせられる中で聞えた声。
 そう。
 殺した分だけ守れた笑顔があった。
 一を切り捨てたのなら、間違いなく九は守れたのだ。
 男が守ったとも意識できないような遠い所に存在したとしても、間違いなく奪った数倍の笑顔を守れた。

 笑顔が見えた。いつも見えていた笑顔が見えた。白い笑顔が見えた。
 この笑顔が守れるのなら。
 修羅も怖くは無い。果てがないのなら可能な限り救い続ける。
 磨り減ることなど構わない。
 否
 この白く愛しい笑顔が守れるのなら
 磨り減るはずなどない。

 鉄のムシロを振り払う。
 許せとは言わない。
 忘れはしない。
 だが
 俺は俺を貫く。

 皆が笑っていられる世界に辿りつけないのは判っていても。
 不器用で情けなくても。
 自分が見える世界の人くらいはいつも笑っていられるように。

 その世界の中心で、あの少女がいつも笑っていられるように。

「答えは出ましたか、シロウ」

 いつか聞えた声に振り向く。

「貴方のことはいつもここにある鞘を通して見ていました。貴方は苦しんでいた。
――答えは見つかりましたか」

 背後には半透明になり、消えつつある鞘があった。
 それに重なるように少女の幻がいた。
 男は頷いて返答とした、黄金の夜明けの。

「今でもお前のことは大好きだ。でも、ゴメン」

 いつかの答えを返すのではなく

「今、俺の命の席に居座っているのは」

 今の答えを示す。

「イリヤみたいなんだ」

 だから

「俺は戦う」

 戦いの果てに傷ついたとしても

「守ると約束したから」

――誰が何をしようと、救われぬ者というのは確固として存在する。人間にできる事などあまりにも少ない。それでも―― 一度も振り返らず、その理想を追っていけるか。
 赤き騎士が問う。
 当然。そう決めた。

「それが貴方の出した答えなのですね」

 幻影が薄れ、少女の姿が消えていく。

「俺は、もうお前の鞘ではいられない。だから、鞘の投影も二度としないだろうし、俺の中の鞘も消えてしまうだろう」
「構いません。シロウ、貴方が前へ進むと言うのなら、私はそれを祝福する」

 少女が男に歩み寄る。

「これは手向けで、―――少し我侭です」

 唇が触れあい、淡い光が鞘から放たれた。



†        †        †





 衛宮士郎と死徒ドラキュラが対峙する。

「人間、なぜ戻ってこられた。なぜ我が改竄を打ち消し――再び立っている」

 眼を見開き士郎を凝視するドラキュラ。
 握り締められた拳からは血が滴っている。

「ああ、簡単な話だ。だって俺は正義の味方だから」

 負けるはずはなかろう?
 士郎は肩を竦め、

「では伯爵殿。覚悟はいいかな?」

 一歩踏み出そうとする―――が

「アダ、イタダタダタタッ! 痛い痛い!」

 後頭部の髪を引っ張られた。
 引っ張っていたのはイリヤ。目を丸くして、信じられないような顔で髪を引く。
 髪の次は頬を引っ張ろうとした。あまり肉のない男の顔の、皮を引っ張る。

「だから痛いってイリヤ!」

 ポケーと呆けた顔のまま、イリヤは士郎の厚い胸板を叩く。ペチペチ。

「シロウ? 本当に、シロウ?」
「他の誰に見えるってんだ。間違いなく俺は衛宮士郎だよ」
「だって…こんなに髪が白くなって、肌の色も変わっちゃって……。ねぇ、本当にわたしの知っているシロウ?」

 ん、と士郎が自分の髪を見る。確かに白い。
 少女の不安に今度こそ気付き、士郎は返事をする。

「ああ、間違いなく、イリヤの兄貴の士郎だ」

 わしゃ、とイリヤの頭を撫で

「心配かけたな」
「ホント、心配したよ。バカシロウ」

 涙目で笑う少女の顔を見て、士郎は死徒に向き直る。

「イリヤ、待っていろ。あいつを倒す」
「………どうやって?」
「――――気合と根性?」

 刹那、士郎の頭をなにやら柔らかいものが挟む。
 あれ、と士郎が漏らす暇もなく、彼の脳天が地面とフレンチ・キス。イリヤスフィール式リバース・フランケンシュタイナーが日の目を見た瞬間であった。
 なんでさ。なんでこんな目に合うのさ。

「また考えもなく突っ込む気だったの!? ああもう! わたしに策があるからちょっと耳貸してってば!」
「イリヤ。なんか乱暴になったか?」
「ううう、いいから耳貸せぇ!」

 士郎に先程使った流動停止魔術について教える。

「だからいい? シロウは――」
「いつまで私を無視するのだ下種共めが!」

 ドラキュラが影狼を放つ。

「作戦会議中だから黙っていて!」
投影(トレース)開始(オン)、『風王結界(インビジブル・エア)』、解放(ブレイク)!」

 二人を中心につむじ風が起こり、束の間の盾となる。面白いように、情けないように影狼が吹き飛び、ドラキュラは風に飛ばされないように障壁を張る。

「分かった。俺は詠唱時間を稼いで、決定的な隙を作ればいいんだな」
「そう。この魔術は詠唱に時間が掛かるから。さっきはどうにか当てたけど、二回目は期待しないほうがいいでしょ」

 作戦決定、と二人が拳を合わせ、士郎が再度ドラキュラに向き直る、と

「ところでイリヤ。俺、魔力ほとんど空なんだけどどうにかならないか?」
「は?」
「いや、さっきの投影が最後でさ。手を打とうにもどうしようもなくて。だから、魔眼使って魔力供給でもできないかな〜と思ってさ」
「魔眼でそんなこと出来ないよ。でも」
「でも?」

 イリヤが人差し指をくいくいと曲げる。ちょっと顔貸せ、のジェスチャーだ。

「なんだ、イリヤ」
「こうすればいいの」

 イリヤが士郎の襟首を掴んで引き寄せ、唇を合わせる。合わせる、と言うには少々荒々しく結合の度合いも大きい上、二人の身長差は約三十センチ。小さいほうが主導権を握っていることもあってどうにも絵にならない。

「ぷは、力ずくだったけどうまく繋がったかな。どう、シロウ?」
「ななななななななな、何をする! いけないぞ女の子がそんなことしちゃ!」
「何言っているの。魔術師にとっちゃこのくらい当たり前よ。パス繋ぐにはこのくらいしなきゃ」

 本当は性交したほうがいいんだけど、この状況じゃね〜と言うイリヤとは対照的に、士郎は泡を食っている。

「性交だなんてそんなこと恥ずかしげもなく言っちゃいけないぞ! 第一俺は魔力を補給したかったのであって宝石の一個でも飲めばそれでいいのだし…」
「リンじゃないんだし、宝石なんて持っていないわよ。そもそもシロウは今だにパス繋ぐのに慣れていないの? この五年間何してきたんだか」
「いや……魔力切れって事態はあまりなかったし……。女の子が惜しげもなくキスするのは感心しないというかその」
「何? シロウはわたしとキスするの嫌だった?」
「いや全然…ってナニ言わせるんだ!」
「ならいいじゃない。接続も…うん、問題なし。さあ、いったいった」

 士郎の尻を叩いて送り出すイリヤ。士郎は「そういう問題ではなく、兄としてだな」とかなんとか言っている。

「ようやく出てきたか人間。我が偉大なる固有結界を如何にして振り払ったのか、その脳味噌引きずり出して調べてくれるわ」
「ああ、好きにしろ。こっちもあんたにゃいい加減腹立ってんだ」

 士郎はちら、とイリヤを振り返る。少女の肌からはわずかに血が滴り、なんだかテカテカと光っている。

「お前はあの子に傷をつけた。しかも――舐めたな」

 目を細める士郎。少し前までの姉弟漫才の余韻はなく、眼光は鋭く冷たい。

「あの子は俺が守る。手を出すんじゃねぇ」

 訳:イリヤは正義の味方である自分が守る。吸血鬼なんかに襲わせはしない。
 一般的解釈:あいつは俺の女だ。勝手に舐めまわしてんじゃねぇボケ。

 イリヤの顔は爆発し、ドラキュラも眉をしかめる。

「貴様、この場でナニを腑抜けたことを。私に勝てるとでも思っているのか。惨めに敗れ去った貴様がこの私に!」
「勝てるさ。俺はもう、お前なんかに負けはしない。…………一人じゃないから」

 士郎が手を伸ばし、虚空から偽・黄金剣(カリバーン)を手に取る。

「いくぞ」
「来い、下種!」

 影狼が数百頭殺到する。それを士郎は

再度(アゲイン)、『風王結界(インビジブル・エア)』、解放(ブレイク)

 再度風の刃を振るう。
 風の中を一人悠然と歩き、死徒をしっかりと睨みつける。

「俺は、お前に勝つ」

 彼我の距離は十五メートル。その場で立ち止まり、士郎は目を瞑る。
 大気が蠢く中、張り詰めた空気が音を立てる。

「昨日は忘れていた。衛宮士郎は剣を振るう者じゃないってことを」

 紡ぐのは撃鉄。衛宮士郎が真に使える唯一の魔術を発動させるための引き鉄。
 実現は容易い。先程“それ”は見てきたばかりだ。
 一体どうしたら不可能であろうか。
 それが己に許された唯一の手段なら。
 ただそれだけに於いて自分は究極の一となる――!






I am(体は) the bone of(剣で) my sword.(出来ている)
Steel is my body, (血潮は鉄で) and fire is my blood(心は硝子)



 以前、自分は息絶えるはずの少女を救った。


I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)
Unfamiliar to defeat.(ただの一度も敗走はなく)
Nor familiar to advance(ただの一度も讃えられない)




 現在、彼女にはいつも笑顔でいてほしいと願っている。


Withstood pain to create weapons,(彼の者は常に抜き身)
suffering to keep the pledge(剣の丘で緋に染まる)




 ベタな科白だけど、笑顔でいてほしいのなら自分も笑顔でいなくてはいけないと思う。


Yet, this(故に、) path has never been rewarded(生涯の鞘を求め)




 いつか任せられる奴が現れるまで守り抜く? そんなものは戯言だ。


Even so I proud(そこに、)――――」




 冗談じゃねぇ。イリヤは俺がずっと守っていく。そして、俺にはイリヤが必要だ。

 ―――辛いことは辛いと思ってよ。もっとわたしを頼ってよ。

 俺は馬鹿だ。心配させまいとして、余計心配させている。

 ―――わたしはシロウと一緒に戦えないけど、シロウを支えることくらいできるんだから。
 ―――わたしにもシロウを手伝わせてよ。全部背負い込む必要なんてないんだしね。

 そうだな。馬鹿な俺を支えてくれ、イリヤ。
 二人で、勝とうな。








“unlimited blade works”(白い光を見た)










後書き

というわけで第七話でした。
冒頭の独白(?)はプロローグの最後の部分です。多分皆忘れているであろう部分。覚えていてもらう努力しなかったので当然っちゃ当然ですが。

今回はセイバーとのシーンを書きたかったのです。それはもう連載始める前から。というか話の脳内プロット組む前から存在していたシーンでした。

次回、最終話です。

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