超絶騒動練習曲b

 夜の街を一体の骸が駆ける。
 逃げる逃げる。
 捕まったらサイゴの鬼遊び。

「見つけたぞ、死者よ」

 ミツカッタ。

「いい加減終わりにしようではないか」

 オワリダ。

「この馬鹿げた害虫駆除を」

 路地裏の闇に佇むは暗い青の外套を着込んだ青年。街の灯りは届かず曇天の空からは月明かりすら差し込まず、その白い髪を照らすことはない。
 青年の手から三筋の剣が放たれる。その銀の刃は全く光りを反射せずに標的の躯を破壊する。

「お疲れ様ですわ、ミスタ・エミヤ」

 破壊された躯の背後から声が発生し、蠢く闇が死神を吐き出す。
 処刑鎌。まさしく死神のそれを振りかざし、躯の脳天に叩き落す。
 一撃で粉砕された躯が灰となり散る。

 二つの暗が暫し見詰め合い―――

「いや、どうも。黒鍵お借りしちゃってすみません、センリさん」
「いえいえ〜。シロウちゃんの頼みなら十本でも二十本でも構いませんですわ。あら、ワタシ二十本も持ち歩いていたかしら」

 談笑し始めた。



 ここは日本のとある地方都市、冬木市。二ヶ月程前に死徒の襲撃にあったこの街では、残存している死者の浄化が行われていた。
 長ければ数ヶ月から一年にも及ぶその作業は、この町に新しく派遣された代行者、センリ・ミニュイ・グラスオーガの尽力と、冬木の魔術師の協力で驚異的な速さで進んでいた。
 協会と教会。普段は仲の悪い両者だが、件の代行者自身は別に魔術師を異端として嫌っていたりはせず、さらにこの町の魔術師のうち半数は協会員ではなく、協会員である残り半数も、一人の男が

「じゃあ、教会じゃなくて俺に協力してくれ」

 と、実にいい笑顔と共に懐柔した。

 センリ・ミニュイ・グラスオーガ。死徒が襲撃した際に命を落とした前任者に代わって赴任した代行者。扱いづらい黒鍵に代わり、対吸血鬼用の処置を施された武装の処刑鎌を主に扱う。
 やや垂れ気味の大きな目を持った彼女は今年で三十三歳になると言うが、どう見ても十代後半にしか見えないあたりはさすが代行者(?)。というか異常。
 柔らかそうな栗毛は背中の中ほどで切られ、柔和な表情をさらに優しく見せている。

「かっこよかったですわ〜。“この馬鹿げた害虫駆除を”……。こんな風に眉間に皺寄せちゃって」
「はは………。意識はしていないですが」

 シスター・センリが処刑鎌を一回振る。刃の部分が紙片になって散った。
 紙片はセンリの手元に集まり、一冊の聖書になった。

「あーあー、こちらエミヤン。こちらエミヤン。目標は殲滅された。繰り返す。目標は殲滅された」

 士郎が新品の暗い青の外套からトランシーバーを取り出し、連絡を始める。すぐに返事が返ってくる。

「こちらドミニオン。こちらドミニオン。了解〜。残る一体はネコミミとウサミミが追跡中」
「なあイリヤ。これ、何の意味があるんだ? 俺たち魔術使えるんだからトランシーバーなんか必要ないだろ」
「念話の魔術使えないくせに何言ってるの。それに、わたしのことはドミニオンって呼びなさい」
「それでも携帯で事足りると思うんだけどな……。それに何でまたコードネームなんか付けたんだ?」
「…………気分?」
「おい」
「きゃは☆」
「いいか、これは遊びじゃないんだ。ふざけていたら死ぬかもしれないんだぞ」
「シロウちゃん、お説教するのが遅すぎでしてよ」

 センリが肩を叩く。

「見回りの成果か死者もここ十日程姿を見せていませんでしたし、見た限り相当弱っていましたわよ。貴方とワタシなら言うに及ばず、リンさんとサクラさんも万に一つにも負けることはありませんですわ」
「しかしですね」
「以上連絡を終了する。ブツ」
「あ」

 イリヤがトランシーバーのスイッチを切る。

「まったく。シロウったら最近ますます説教臭くなっちゃって。歳かしら」

 ここは新都のビル屋上。双眼鏡片手に連絡係をする少女が一人。
 時刻は夜中の一時過ぎ。さすがに人通りも少なくなっており、あたりからは人の気配はしない。
 しない、はずだ。

「お待たせ、出てらっしゃい。ストーカーさん」

 イリヤが双眼鏡を覗き込んだまま、背後の闇に話しかける。

「ストーカーとは酷いじゃないか、お嬢さん」

 闇の中から男が歩み出る。歳の頃は四十半ばか。歳の割に引き締まった体躯と若々しいオーラの西洋人である。

「ボクの名前はチャーリィ・山田。協会の魔術師だ」
「ふうん。で、その偉い偉〜い協会の魔術師さんがこんな小娘に忍び寄るなんてアブナイ真似なんかして、何のつもりかしら」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいなあ。ボクはね、君を助けに来たんだよ」
「?」

 ここでようやくイリヤがチャーリィの方に顔を向ける。

「ボクは近々この地で聖杯戦争が行われるという噂を耳にして、わざわざやって来たんだ」
「あ、そう。残念でした。この地には二度と聖杯は現れないよ」

 大元の大聖杯が存在しない今、聖杯戦争が起こるはずはない。そもそも、仮に聖杯戦争が起こるとしても元・聖杯(イリヤスフィール)にその事が察知できないはずがない。

「一々うるさいね。いいかい、ボクは君を守ってやろうと言っているんだ。ボクの魔術の力と君の知識があれば聖杯戦争を勝ち抜くのは簡単だ。そうだろう? アインツベルン?」

 すう、とイリヤの目が細められる。

「前回の聖杯戦争で敗れて以来、こんな猿供がごろごろしている極東の田舎で飼い殺しにされているけど、君だって聖杯を求めているんだろう。さあ、手を結ぼうじゃないか」
「聖杯戦争は起こらないと言っているわ。それに、わたしは自ら望んでここにいる。別に飼い殺しにされているわけじゃない」
「ふん、強情だね君も」

 チャーリィが面白くなさそうに前髪をかき上げ、半眼になってイリヤを睨みつける。

「いいだろう。そのときになって泣き付いて来ても知らないからな。いや、敵になる可能性のある奴はここで潰しておくか」

 どん、と右足で地面を踏みつける。脚部の魔術刻印が作動し、コンクリートの屋上から木が生えてくる。

「ボクの魔術属性は木! ケルト魔術、ヤドリギの鞭を受けてみな!」

 ヤドリギの鞭が計八本、イリヤに襲い掛かる。

「はあ……。バカ」

 イリヤが指先からガンドの弾丸を放つ。全てヤドリギに着弾し、吹き飛ばす。

「この程度で聖杯戦争に勝てるつもりなのもそうだけど、自分の魔術をひけらかすなんて、とんだ三流ね。出直しなさい」
「はん、強がりを。いいよ、今ならまた許してあげる。さあ、ボクの軍門に下りな」
「……まず人の話を聞きなさいよぉ、もう。面倒だなぁ」

 イリヤの姿が霞む、と思ったらチャーリィの懐に飛び込んでいた。

「ウザいから消えろって言っているのよ!」

 ガンド、零距離連射。チャーリィ無言で屋上より転落。

「あ、やっちゃった」

 慌てて下を覗くイリヤ。人殺しはマズイ。マズイ。社会生活を送る上で実にマズイ。
 が、幸運かな。チャーリィはヤドリギでクッションを作り、無事だった。

「覚えていろよ! ボクのサーヴァントがお前を殺すからな! わあああん、お母様〜!!」

 泣きながら走り去るチャーリィ。あんた何歳よ。

「あれだけガンド喰らっといて、動けるんだ。タフだね」

 額に汗をかきながら苦笑いするイリヤ。なんか変なデマに踊らされたようだけど、厄介な奴が現れたものだ。

「シロウ達に知らせる必要は………ないよね、さすがに馬鹿馬鹿しいし」

 そう呟くと、トランシーバーのスイッチを入れる。

「あーあー。こちらドミニオン。ネコミミ、ウサミミ。応答せよ」



†        †        †





 その頃、凛と桜は一体の死者を追いかけていた。

「そっち、逃げ込んだわよ! 右!」
「はい、―――って左じゃないですか!? 姉さん何回目ですか!」
「だーもう五月蝿い! このくらい根性でカバーしなさい」

 追いかけていた。実に数十分。
 その追いかけっこもようやくケリがつきそうな塩梅となった。死者は行き止まりに追いつめられ、唯一の逃げ道には凛と桜が立ちふさがる。

「はあはあ……中々やるわね。でもこれでお終いよ、観念なさい!」
「ぜえぜえ。姉さんがうっかりをしなければとっくに終わっていましたよ。年々酷くなってません? 姉さんのうっかり」

 凛が懐から宝石を取り出す。同時に桜の影が蠢き出す。

「桜、下がっていなさい。派手なのいくわよ」
「姉さん下がっていてください。一気に飲み込みます」

 ………………。

「あんたが下がりなさい」
「姉さんが下がっていてください」

 ………………。

「強情ね、弱いくせに」
「何を言いますか。姉さんだったらうっかりミスして怪我します」

 ………………。

「あら心配してくれるの? 嬉しいわねぇ、このネクラ娘が」
「もーしもーし。ネコミミ、ウサミミ応答しなさいよー。さっきから呼んでいるでしょー」
「何時の話でしょう。万年金欠うっかりさん。うっかりが可愛いのは十代までですよ?」

 赤い怒気と黒い怒気が実体を持って顕現する。死者はそのあまりのプレッシャーに動く事が出来ない。二人はトランシーバーから漏れる声などお構いなしに口喧嘩を続行する。

「あ〜ら、言いたいことも言えなかったあんたが生意気にも私に意見するようになるとはね。成長してくれてお姉ちゃん嬉しいわ」
「うふふふ。ありがとうございます。それに比べて姉さんは成長しませんね。極地的災害でも起こっているんですか」

 桜の視線は上半身中ほど。一般的には胸部、的確に言うのならバストと言われるそこで固定される。もっと的確に言えば○だ、○。

「知ってますよ〜。今のサイズは7ろ「ぎゃーーー!!」」

 凛が悲鳴を上げる。人の身体的特徴をあげつらうのはよくありません。

「いいからいいから! あんたは私の後ろにくっ付いてきていればいいの! それが安全なんだから!」
「いつも思っていましたが! いつまでも無闇に姉貴風吹かせるのやめてもらえませんか! あんまり五月蝿いと枕元に黒くて油な蟲をけしかけますよ!」

 ギャイギャイ。

「シロウちゃん。あの二人って仲いいんでして?」
「の、はずですけど」

 駆けつけた二人が死者をのしているのにも気付かず、姉妹の口喧嘩は続いていく。
 実力行使に出ないだけマシだとも言えようか。



 どっとはらい。




後書き
センリ:エピローグ二話目、元ネタは「超絶技巧練習曲」、フランツ・リスト作曲でしてよ。
作者:前回書くのすっかり忘れてたからなー。
センリ:で、何書きましょ。
作者:これだけゆるゆるだと分からないな。
センリ:ワタシの鎌については?
作者:ああ、あれね。概念武装ってことになるのか?死者程度に使っていたけど。
センリ:ジェネシス・マニュスクリプトって名前付でしたわよね。
作者:創世記写本って意味。
センリ:聖書って元々写本群だと思いましたけど?
作者:知らん。
センリ:その辺の扱い、公式ではどうなっているんですの?
作者:だから知らん。
センリ:で、どんな概念ですの?
作者:プロローグで明かせると思うたか。
センリ:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!
作者:ぬわぁぁぁ!!
センリ:ゲストに冷たくする人嫌いでしてよ!

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