超絶騒動練習曲extra

 正直な所、少女の名乗りを聞いた時は耳を疑った。
 自分を人間扱いしていない。
 ただ己の存在意義を果たすためだけの機械のようだった。
 その考えを改めさせられたのは最初の夜。
 見るはずのない夢を見た。
 少女は誰からも人間扱いされていなかった。
 来る日も来る日も己を痛めつけ。
 少女に人間らしさなどは求められていない。
 だが、躯を刃に裂かれ、全身を血に染めながらなお、少女は泣き言一つ言わず役目を果たそうとしていた。
 小さな体で、超えられるはずのない壁に立ち向かっていった。
 どれだけ傷つこうとも誰かを怨むことなど無かった。
 弱音を吐くことなどもっての他。他者を罵倒する言葉さえ口をつくことはなかった。
 なるほど、他者を嫌うことで形成される強さもあるだろう。
 しかし、少女はそのようなものを必要としなかった。
 気高く崇高。
 傷つくだけの日々。終わる事なき茨の道。
 休息など許される筈もなく。
 見果てぬ高みに手を伸ばす。
 同時に気付いた、少女のもろさに。彼女の強さが虚勢でもなんでもない、少女そのものだったから。
 もし一度その強さに罅が入ることがあれば、二度と立ち上がることはできない。
 それに気付いてからは、主とか従とかは関係なく少女のあらゆる期待に応えようと誓った。
 この美しくも脆い刃金の、矛となり盾となると決めた。
 少女は、炎に焼かれし荒野の中心に起った千本目の白刃――――。



†        †        †





 その夜、彼女は終わりへの階段を上りつつあった。
 止めたかった。食い止めたかった。終焉の瞬間を。
 オレはまだ希望(彼女)と共にいたかった。
 だから言った。戻ろう、と。
 二人で戦いの炎が届かないところで暮らそうと。
 彼女なら、オレの言うことを受け入れてくれると思った。
 オレは甘い誘惑に従った。
 だけど彼女は首を横に振った。
 自分は成すべきことがある。
 それが目的で。
 その目的は決して間違ってなどいない。
 だから、逃げることなどは許されない、と。
 彼女は続けて言った。
 貴方は優しすぎます。後は私に任せて。
 オレは何も言えなかった。
 迷いも憂いも持たぬ瞳から目を背けた。
 朝日が昇る頃にはもうどうしようもなくなっていて。
 日が高くなった頃には全部終わっていた。
 彼女はもうこの世界にはいなかった。
 生涯を剣として、身を鮮血で染めながら戦場を駆けた少女。
 薄汚い輩に死の瞬間まで汚され続けて尚、彼女は美しかった。
 その悲壮な信念を曲げることはなく、だからその信念に縛られていた。
 オレは彼女を聖なる呪縛から解放したかった。
 命だって魂だって失っても構わなかった。

「世界よ。我が死後を預けよう。その代わり、彼女を救ってくれ」

 なのに

 オレは結局、彼女を救えなかった。




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