8の奇想曲とフーガ

 いつの間にか流れ着いていた港で、ソレと出合った。

「誰が子供よ、失礼ねぇ。私はサーヴァント・アーチャー。よろしくお願いするわね、若白髪君?」

 そう名乗った、金髪黒瞳の弓兵。白の衣装に包まれた体から握手を求めるように手を伸ばす。
 猫っ毛の金髪と、細長い動向の黒い瞳。しなやかな体つきと相まって猫を連想させる外見だが、不思議と第一印象は犬だった。
 その魂に刻まれた役割に従い、獰猛なまでに対象を噛み砕くだろう牙を、おそらく彼女は持っている。
 それが、自分が召喚したサーヴァントなのだと、士郎は直感した。
 魔力の爆炎が逆光となって彼女を照らす。主が目を覚ましたとき、既に始まっていた戦闘。
 その最中にあって尚、此度のアーチャーは余裕の構えを崩さない。
 赤い爆風に暴れる、まだ僅かに湿った髪を巻きつかせ、あくまで優美に腰を下ろしていた。


 士郎に伸ばした手はそのままに、アーチャーが首を回す。視線の先には炎の中から歩み出るもう一つの人外。

「あ、やっぱり効かなかったか。若白髪君、私、あのサーヴァントにはもう何発か撃ち込んでいるんだけど全然効かないんだよねぇ。困ったかな」

 そう言われ士郎は人影に目を向ける。自分達と十メートル程の距離を置いて対峙する、現在は敵と認識せざるを得ないサーヴァント。
 最初は女性だと思った。顔立ちが人形じみた繊細さを放っていた。体躯があまりに華奢だった。錆刀を持つ腕が白すぎた。なにより着込んだ朱色の和服は紛れなく女物で、それは実に似合っていた。
 だが、骨格は間違いなく男性。成長期がまだ終わっていない少年のそれ。
 屍じみた顔色は生気を感じさせず。
 そしてその瞳からは一切の理性が見られなかった。

「……バーサーカー」
「おそらくね。さっきから刀を振り回してくるだけなんだ。攻撃の威力も十分凌げるし、それだけなら脅威じゃないんだけど」

そう言い、アーチャーはだらりと手をかざす。

「見てて。―――Δια(徹甲)

 現代の人間には聞き取ることすら不可能な神代の詠唱に間髪置かず、金色の光線がバーサーカーと思しきサーヴァントに向かって伸びる。
 眉間を貫くかと思われたそれは、バーサーカの手前で打ち消され届かない。夜間ということもあり、かなり見難いがよく見ると、バーサーカーを包むように黒い煙らしきものが見える。
 アーチャーから再度攻撃を受け興奮したのか、バーサーカーが獣じみた咆哮と共に突進する。振り上げられた錆刀をかわす素振りを見せないアーチャーが再び行う詠唱。

Μαρδοξ()

 出現した水晶の盾が刀を受け止め、破裂音が鼓膜を叩く。音圧がアーチャーの傍らに伏す、盾に守られた士郎の体を震わせ、盾の効果範囲外にあるコンクリートに蜘蛛の巣が出来る。
 軽く舌打ちをする士郎。本当に体が動かない。ついさっきまで意識がなかった自分に、状況はほとんどつかめてはいない。
 ここは退くべきだ、と本能と理性が共同戦線を張るが、このままでは退却もままならない。
 ならば、

「アーチャー」
「ん、何かな」
「あー……、自己紹介なんかは後にするとして……。俺をマスターと認めるか?」
「取りあえずはねぇ。マスターはいなきゃ私はどうしようもないから」
「なら頼む。あいつを追い払ってくれ」
「それだけ?」

 お、意外、という顔をするアーチャー。その顔を見せられた士郎が苦笑する。サーヴァントってのはどいつもこいつも相手を倒すことしか考えないのか。
 ぱっと見の外見に似合わず好戦的だったかつての相棒を一瞬思い出し、ため息一つ。

「マスターとして命じる。バーサーカーを倒せ!」
「それでいいよ」

 肩をすくめて立ち上がり、一歩前へ出るアーチャー。剣の柄が絞られるようにアーチャーの纏う空気が硬質化し、両手は水平に。唱えられる呪は厳かに。
 収束し始める魔力が蛍火を生み、炙られる弓兵の身体が強化された。続けて呪文が発せられる前に、バーサーカーが再度の攻勢に移る。

「――Πσψκηε(死霊憑依)Ιππι-αυαξ(騎兵の隊長)!!」
「シャアアアアアアアアアアアアア!!」

 跳躍、夜闇を背負い落下する兇刃を、弓兵の名を冠していようと戦い方は間違いなく魔術師のそれであるアーチャーが真正面から受け止める――。
 金属音。もしくは銅鑼を叩き割る音。
 バーサーカーが狂人の筋力と重力を以って叩き付けた一撃は、アーチャーが右手に携えた剣に咬み付かれ固まっていた。

 アーチャーが刀を受け止めた短剣の名はアサイミ。魔女術全般に使われる黒柄の短剣である。
 本来魔術師であろう彼女にはおあつらえ向けの得物だが、戦闘使うとは考えにくいものであるが、

「蝶……か?」

 短剣を持つ腕の、二の腕までを隠すのは蝶の群だった。
 蜂に纏わり付かれた養蜂家、と言えばよいのだろうか。とにかくアーチャーの腕は蝶によりその状態だった。
 ときおり一羽二羽と、蝶が塊から抜け出し、辺りをふわふわと浮く。
 バーサーカーと拮抗した刃に、蝶の羽から飛び散った燐粉が放つ光が反射し、地に堕ちた星のようだ。
 アーチャーは、片腕をついて必死に起き上がろうとしている士郎に振り返り、

「ああ、解説するとぉ、兵士の霊を召喚して憑依させたの。憑依経験っていうやつ」

 言うと、空いた左手から衝撃波を放ち、バーサーカーを吹き飛ばそうとする。だがやはり黒い煙のようなものがアーチャーの攻撃を防ぐ。
 このままバーサーカーと組み合ったままでは埒が明かない。やむなく一旦後退するアーチャーに追いすがり、煙の一部が弾丸となり追撃する。鬱陶しそうに短剣で振り払うと、予想外の衝撃が剣に響き、姿勢をわずかに崩すアーチャー。

「!? これ、ただの盾じゃない……!?」
 狂戦士の少年にしがみ付くように漂う黒い煙。それが、刀を弾くアーチャーの迎撃の間隙を縫って飛来する。
 適当に避けるか防ぐかすれば凌げる程度のものだが、裏返せばサーヴァントに対処を迫る程の威力を持っているものでもある。
 理性を失ったバーサーカーに攻撃魔術の類が使えるとは思えない。ならば自動攻撃の呪いでも持っているのだろうか。

「あるいはそれが宝具、かな」

 打ち合った勢いで後退し、煙の追撃を盾で防ぐアーチャー。ようやく上半身を起こした士郎に呪を唱え、

「空中からの攻撃に切り替えるね」

 自身はそのまま浮宙できるのか、出現した魔法円の皿に乗せられた士郎と共に空中に浮かぶ。エレベーターが常勝するように煙の弾丸も届かない高さまで上がり、

「くそっ、近くにマスターの気配はない。多分遠くから監視しているんだろうけど生憎俺じゃ分からない手段みたいだ」
「ん、少し困ったね。あの煙、多分バーサーカーの盾であり弓であるあれが宝具なんだろうけど、あれは彼にかけられた魔術というよりは、想念が結晶化した呪いに見えるんだ」
「分かるのか?」
「うん。サーヴァントは亡霊みたいなものだからね。無念とか怨念の類には敏感だし、ユーレイみたいなものも見える。そもそも私はそういうモノと付き合ってきたモノだから」
「余計呪いなんかは理解しやすい、か。ならアレがどういうものか解析できないか? 見た所あんたは神代の魔術師だ。できれば俺にもアレがどういったものなのか理解させて欲しい」

 いいの、とアーチャーが視線で問う。もちろんだと返し、なら、とアーチャーが、地上で吼え叫び、届かない相手に刀を振り回しているバーサーカーを見つめる。
 許可を得たその黒い瞳に蒼い光が灯り、アーチャーがバーサーカーの盾である煙、その呪いの構造を見抜く。
 同時にその情報はラインを遡りマスターである士郎の脳髄に叩き込まれるノイズ。情報の爆発は容易く衛宮士郎の予想を上回り、焼き付けられた光景が赤熱する鏝となって押し付けられる。

「なんだあれ。あれはまるで」

 脳が赤熱する感触に目を細めた士郎が驚きに瞠目する。
 その煙は海に沈む遭難者にしがみ付かれる船のようだった。

「いや、そもそもあれは怨念や無念じゃなくて、本来もっと正のベクトルを持っているはずの……」

 バーサーカーの少年に絡みつく煙が、アーチャーの眼というフィルターを通して焦点を結ぶ。
 煙にしか見えなかったそれは、無数のニンゲンだった。全て若い女性のみで構成された葡萄の房は枝となる少年に寄り添いしがみ付き、その実を溢してなるものかと爪を立てる。
 首に腕を回し、腰を締め付け、裾を握り締める。
 正気を失ったカノジョ達はバーサーカーを上気した表情で

 ギョウシし続け。

 士郎とアーチャーに顔を向ける溺死体は歯を剥き出しにして

 ヨコドリスルナと金切り声を上げる。

 乳房を薄い胸に押し付け、少年の体を内股で挟み込み、バーサーカーの少年はそれら全てを当然の如く無視する。
 理性がないから対処しないのではない。
 カノジョ達を疎んじるのなら振り払えばよかろう。それをしないのは、自分に付属するものに興味がないから。もしくは放置するのが彼の在り方だから。
 少年の全身に舌を、唇を這わせる液状化した表情は、明らかに恋する女性のそれであり、その対象は間違いようも無くバーサーカーである。
 おそらく少年は生前、多くの女性に想いを寄せられたのだろう。そしてそのどれにも応えなかった。
 故に寄せられた想いが煮詰まり宝具の域まで達し、それが彼を英霊まで押し上げる程の伝承と成ったか。
 あるいは、英霊に達する程の存在であったが故に宝具足るだけの想いを寄せられたか。

「どっちにしたって、あんなのが宝具じや、ろくな英雄じゃないな」
「それには同意するねぇ。私も“ろくな”英雄じゃないけど、あんなに大量かつ高密度の思念を宝具にして座にまで連れて来ているようじゃね。」
 そう言う間にも、カノジョ達は少年に甘い言葉を囁き続け、士郎とアーチャーに威嚇の遠吠えを続ける。
 アイシテアイシテアイシテアイシテワタサナイアイシテコレハワタシノモノワタシヲアイシテコノドロウボネココッチヲムイテ――――。
 ドウシテワタシヲミテクレナイ。ワタシノモノニナラナイナラアナタトワタシイガイミンナコロシテヤル。
 ソウスレバアナタハワタシノモノ。
 軽く攻撃魔術を撃てば、腕を広げ射線上に殺到し盾となる。
 コノヒトニキズハツケサセナイ、ワタシノモノニテヲダスナ。
 テヲダスナ。テヲダスナ。
 ワタシヲミテミテミテミテミテミテミテミテミテミテミテ。

 そんな、脳髄に直接響く呪詛がたまらなく不快だった。

「若白髪君、少しこのまま待っていてもらえるかな?」
「……アーチャー?」
「すごく近しい人間にいたんだよねぇ、ああいう娘が」

 くすくす、と顎に指を当てて苦笑するアーチャー。
 ぴく、と頬が引き攣った士郎は思った。ああ、怒った桜があんな笑い方するなあ、と。

「男に執着しすぎて身を滅ぼすって言うのかな、まあその娘は最初から利用されていたのだけど」

 大砲の撃ち下ろしのように急降下を始めるアーチャー。

「やたらと気に障るんだ、ああいう声」

 舞い降りる手は高らかに。

「――Δκεπαρνδν()!!」

 落下する白の弓兵から落とされた断頭の斧が一直線にバーサーカーの脳天にカチ当たり、煙の盾に阻まれる。
 同時に士郎は盾が軋む音を確かに聞いた。

(効いている。こっちの攻撃が向こうの防御力を貫通できないだけで、全然効いていないわけじゃない)

 攻撃の余波が埠頭のコンクリートを打ち割り、特大の破片が浮き上がる。
 詠唱とともに再度腕が蝶に包まれる。
 古代の魔術師であろう彼女には近接戦闘の能力はない。魔術師と近接戦闘のスキルというものが結び付けられない思考が出来上がっている。
 故に何時か何処かにいた兵士の霊を幽世より呼び出し、自身に憑依させることで生前の戦闘技術をダウンロードし、強化した肉体に乗せている。
 右手に握られた黒柄の短剣が十分の一秒に二回、大気を切断する。
 一の太刀は肩を吹っ飛ばしに、ニの太刀は両太腿をまとめて割りに。
 怨念によって紡がれた煙の盾は全てそれを防ぎ、行き場を失った運動エネルギーが熱と音となって飛び散る。
 唐竹に叩き落ちる短剣の軌道に併せてさらに斧が二本、盾ごと狂戦士の体がコンクリートに沈み、フルスウィングされた短剣に打ち飛ばされたバーサーカーが海上に飛ばされかけ、

「まだだよ」

 空中に縫い付けられる。

「――Τρνπητηζ()

 計七十七。白褐色の小ぶりな魔法円がアーチャーの背後に浮く。魔術師が号令を下し、殺到する白褐色の軌跡。
 海面が波立ち泡立ち、魔力弾が大気を切り裂く金属音と大量の熱量により爆発する海水が上空で傍観していた士郎の視覚と聴覚を奪う。
 三度打ち下ろされる魔力の斧。拘束を解除され撃沈する狂戦士。

 静寂が戻る。アーチャーの攻撃は十秒にも満たなかっただろう。
 その間に撃ち込まれた攻撃は、サーヴァントと言えどまともに直撃すれば二桁は殺せるであろう物量であった。
 それを、

「防がれた、逃げられた」

 バーサーカーを包む執着の盾が全て防ぎきり、マスターが令呪を使ったのか、海中のバーサーカーの気配は消えていた。

 弓兵の眉間にしばし皺がより、息をついたアーチャーが士郎を見上げる。

「じゃあ、自己紹介をしようか、マスター?」

 一応、苛立ちは隠していた。
 士郎にはびしびしと堅い空気が向けられていたが。

「ああ、まず下ろしてもらえるかな、アーチャー」

 魔法円の盆に乗せられたまま浮遊していた士郎も息をついた。
 こっちはもちろんため息であったが。






 此度のセイバーが建設途中のビルのドアを蹴り開ける。
 後ろから、マスターであるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが入ってくる。
 セイバーが振り向き、灰金色の髪がわずかに波打った。
 灰色の瞳がイリヤに向けられ、セイバーが若干申し訳無さそうに謝る。

「申し訳ありません、イリヤスフィール。ほとんど野宿だ」
「いいよ、気にしないで。今夜一杯は橋に近づかないようにしようって言う貴女の意見はもっともだし、見た目女子高生(わたし)が一人でホテルを取ったら目立っちゃうもんね」

 気にするな、と手を振るイリヤ。
 比較的綺麗な場所を選んでイリヤが寝転がる。
 しょっちゅう藤村、衛宮邸の縁側で昼寝をしているせいか、雑魚寝の体勢が随分と堂に入っている。

「イリヤスフィール、そのままでは風邪をひきます」

 どこからともなく新聞紙と段ボールを持ってくるセイバー。なんでそれが布団代わりに使えるのを知っている。
 ぱっと見家出少女の格好をして、イリヤが眠る体勢になる。
 彼女は眠りに落ちる前に、懐からロザリオを取り出した。ランサーとの戦闘場所になった、橋で拾った、セイバーの召喚の触媒となったロザリオ。それが黒衣のサーヴァント、その召喚主の持ち物だったことはイリヤが知る由もない。
 途中で切れた鎖をぶら下げてイリヤがロザリオを見る。

「ウロボロスの紋章が刻まれているわね、これ。Solve et Coagulaとも書かれているし。錬金術師の持ち物かしら。
 でも反対側にEMETHなんてカバラの代物と生命の樹が彫られている。これ作った人、節操ないというか、本当に意味分かって作ったのかしら。
 中にも……何か入っている。
 ねえセイバー。貴女、錬金術師か魔術師に知り合い、いなかった?」

 耳元でロザリオを振りつつイリヤがセイバーに問う。
 セイバーは黙って首を振り、否定の意を返す。

「そう?」
「召喚が乱暴だったためか記憶が大分抜け落ちています。自分に関する情報は思い出せますが、真名や、生前の記憶はほとんど思い出せません」
「本当? どこかで聞いたような話だけど、わたしそんなに酷い召喚したかしら」
「…………」
「ま、いいわ。今は訊かないでおいてあげる。でも、思い出したらすぐに言うこと、分かった?」

 誰かさんも実際の所どうだったのかしら、と口の中で呟く。
 脳裏に浮かぶのは五年前に相対した赤い騎士。最近身近な人物とダブるようになった――ほとんど同一人物としか見えない彼も、かつての主曰く記憶障害を起こしていたそうだが……。
 そのようなことを考えつつ、少女の意識は闇に落ちる。
 無音の部屋に残るのは霊体化した剣の従者。
 黙って立ち尽くす姿は石像の如し。長い時間を過ごすことは慣れていると言わんばかりに、彼女は一晩中そこに立ち続けた。
 再び赴いた死地。その手が血に塗れるのは必然か。
 奇跡だ英雄だと持て囃され、利用され、あげく見捨てられ、最期は惨めに死んだ。
 否、そもそも剣を取ったときから既に自分は利用されていた。
 守護者と化し無限にして零の時を過ごしてきた今なら分かる。
 あれは断じて神の声ではなかった。
 契約を求める世界の声。

「結局欲しかったのは私の魂か。……新しい尖兵か」

 世界の尖兵として生き、死して後は世界の尖兵となる。その虚しさ。
 無防備に眠る主を憂鬱に眺める。
 マスターにそんなに嘘はついていない。生前の記憶などとっくに消えうせている。
 知り合いに魔術師がいたかどうかなど思い出せるはずもない。
 取りあえずそこそこの働きをして消えるとしよう。自分はそういう契約を結んでしまったのだから。

「では、何故私は聖杯など求めたのでしょう」

 その記憶も既にない。手の届かぬ深淵に落とした。

「神よ。もし私の声が聞えるのなら、私はそれを思い出したい」

 セイバーは俯いて、奥歯を噛み締めた。
 ガラスがない窓から外を気だるげに眺める。夜の空が橙色に照らされていた。

「火事か。ですが大分遠い。危険はない」







 轟々と燃え盛る郊外の宿泊施設。地に伏すのは魔術協会から派遣された魔術師。
 一ヶ月ほど前、アインツベルンは生贄を集めるためにある噂を流した。
 聖杯戦争が再び行われる、という噂。
 流した先が、ゴロツキばかり集うギルドだったので、既に冬木の聖杯から手を引いていた魔術協会、聖堂教会のいずれも、表立って関心を示すことは無かった。
 だが、既得権益を守ることしか考えない連中の中にも万一を考えた人間がいた。調査のために極秘――教会にも日本の魔術組織にも、勿論遠坂にも知らせず――に人員が派遣され、その魔術師は冬木郊外の宿泊施設に潜伏していた。
 派遣した動機はさて置き、その判断は結果からして正解だっただろう。
 冬木で不意打ち的に起きた第六次聖杯戦争、そこに群がった魔術師が冬木郊外に集結していること、その面々は開始から二日と経たずに調べ上げられ、時計塔に報告され、十日以内に協会の魔術師が正式に派遣されることが決定した。
 だが、調査の際に、注意が疎かになっていたのか、彼自身存在を把握されてしまった。
 把握したのは、管理者でもマスターでもなく。

「教会のシスターが、……時計塔から派遣された私に危害を加えるなど! どうなると思っているのか!」
「あら、どうってことないですのよ? 貴方をここで殺せば口封じは完璧。後は近くに潜伏していたチンピラ魔術師に濡れ衣被っていただきましょうか」
「潜伏して、いた? まさか貴様!」
「ええ、既にワタシが回収させて頂きました。困りますわ、うろちょろされては。まだ誰がどのマスターか分かっていませんのに」

 両手に処刑鎌の概念武装を構えるのは、現在冬木の協会でシスターを務めるセンリ。部屋の中は炎と異臭に包まれていた。

「おのれ、なら……ばっ……はっ」

 反撃に転じようとその身の魔術刻印を発動させるも一瞬遅く、彼の腹部が棘付きの鉄球で潰される。血を吐きながら悶絶する魔術師。

「あら、すみませんねえ。少し気を抜いていましたわ」
「てめえはポヤポヤし過ぎなんだよ。大体、こんだけの数の魔術師見つけといて、マスターが一人だけたぁどういうつもりだ?」

 裾の長い軍服のようなものを着た男がセンリの傍らに実体化する。右手のモーニングスターを振り、センリの栗毛を数本飛ばす。

「そう言われましても……。先ほどの黒い彼を逃がしたのはライダー、貴方でしょう。一刻も早く他のサーヴァントを見つけろと言ったのも貴方。ならもっと頑張ってくださいな」
「はん、いやだね。そのときになったら戦ってやるから、てめぇはさっさと探せ。言っただろ、今回の戦、どうも紛い物が紛れ込んでいる臭いがしやがる。けっ、胸糞わりぃ」
「イレギュラーが召喚されている、ということでしたね?」
「他にどういう解釈があんだよ。気ぃ付けろ。六体殺して安心していたら、後ろから八体目にざっくりやられるぜ?」

 ニタニタと白い歯を見せて笑うライダーと呼ばれたサーヴァント。センリは軽くスルーして、床で悶絶している魔術師の足を掴む。
 ずりずりと引きずりながら、

「車まで運びます。周辺を警戒してください」
「りょーかい。マスター殿の仰せのままに」

 消防車のサイレンが近づいてくる。見つかる前に、立ちさらねば。
 ふと、魔術師を引きずっていくセンリがポケットからメモ帳を落とした。

「おい、落としたぞ」

 ライダーが拾い上げる。癖がついていたためちょうど開いたページには

『マスター
衛宮士郎 サーヴァント不明
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン サーヴァント・セイバー
名称不明のアインツベルン サーヴァント・ランサー
センリ・ミニュイ・グラスオーガ サーヴァント・ライダー
間桐桜 サーヴァント・キャスター
チャーリィ・山田 サーヴァント不明
以下不明


 と書かれていた。

「なんでい、分かってんじゃねぇか」




サーヴァント設定に『バーサーカー』『ライダー』追加。『アーチャー』更新。

後書き

作者:四ヶ月も間が空き、ようやく出来たかと思えばキャラ紹介が終わっただけじゃないかー!! ほんとスミマセンスミマセン。生まれて、ごめんなさい。ガタガタブルブル。

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